海の広さも空の青さも
ここでは違うと 君に伝えたい
沖縄の海の中は、別世界
僕は東北の海に近い町で生まれた。
でも、子供の頃に泳ぎに入った東北の海は何も見えない濁流のような光景だったのを幼心によく覚えている。
大人になって茨城県に移住し、海まで歩いて100mのお家にも住んだことがあるのだけれど、出勤前にひと泳ぎする楽しさはあれど海中の景色は相変わらずの濁流だった。ダイバーとなった今は使うようになった言葉で言えば
透視度ゼロだ。
そんな僕が今では毎年、お魚さんと一緒に泳げる海を求めて日本中を旅している。
そのきっかけを作ってくれたのが、王道だけれど沖縄の海だったんだ。
ハブを求めて西表島に上陸
初めての沖縄の旅での目的は、曲作りで戦争の歴史を直に観るためと、毒蛇ハブを捕まえて役所に持っていき換金することだった。
戦争のことは長くなるのでまたいつかの機会に別で書くとして、まずひめゆりの塔で大泣きしてしまい早くもギブアップした僕は、離島の旅を開始した。
よく調べもしないで来たのだが、とりあえず石垣島に渡りそこからマングローブに出没するらしいハブを求めて、船に乗り込み西表島・ピナイサーラの滝を目指した。
乗船客はたまたまか僕一人だけだった。若い船長さんと話をしながら海を行く中で、こんな質問をした。
「西表島の海には、サメはいますか?」と。ビーチでも小さいサメはいると思う、ということだったので、続けて「殴ったら勝てますか?」と聞いてみた。大真面目な質問だったから、顔も真剣だったと思う。
それを聞いた船長さんの「・・・やめたほうがいいと思いますよ」と言いながら(船から降りて欲しい)という気持ちが溢れ出ていた渋い表情が忘れられない。
それでも海の上で途中下船なんて出来ないから、僕は無事にハブとサメが待つ、西表島に上陸したのだった。
タコライスなのに、タコが入っていない事件
西表島は、発見の連続だった。
とりあえず陸にいる鳥を見つけては、「ヤンバルクイナだ!」と写真を撮りまくった。
後から調べたらぜんぜん違う鳥だったのだけれど、絶対みんな勘違いをする、沖縄の登竜門みたいなものだろう。
由布島では、重いギターを持つ僕では牛に乗ることは出来ない。動物虐待になってしまう。
仕方なく歩いてわたっていると、牛を引いている人から「乗ればいいのに」と言われてしまった。
「僕が乗ると、動物虐待になるから」と丁重にお断りしたが、キョトンとしていた。
沖縄の人には、本土の常識や気遣いというものが通じないのだと悟った。
ランチには、通りすがりのカフェでタコライスという文字に惹かれてそれを注文した。
「西表島は、きっとタコが名産なのだな」とウキウキして待っていたが、出てきたライスにはタコはおろかシーフードが一切入っておらず、味付けされた豚ひき肉が乗っかっていた。
これじゃあ、メキシコのタコスだ!そっちのタコかよ!僕の顔は怒りのあまり茹でダコのように真っ赤になったとかならなかったとか・・・
あとで沖縄の人にこのことで文句をいったら「考えたらわかるでしょ」と言われてしまった。
・・・なんて冷たい人達なのだろうと思った。
目指すはマングローブ、海を観ながら
この旅では西表島東側の大原港からレンタカーで逆時計回りに移動をして、有名なピナイサーラの滝で念願のハブと遭遇する計画だった。
宿など予約していない。行き当たりばったりの計画だった。
由布島で牛に気を遣い、ブルーシールアイスを食べ、タコライスに騙され、それでも時刻はお昼ちょっと過ぎくらいだった。このペースならピナイサーラの滝までは余裕だろう。
そこでもう一つ出来た目的である、サメとの遭遇も出来ないものかと考え、道中の海へ立ち寄ることにした。
この頃の僕にはシュノーケリングという概念がなかったので、ただの海水パンツに、水泳に使うようなゴーグルという装備だった。
訪れたのはピナイサーラの滝にほど近い星砂の浜というビーチだった。
砂浜から、熱帯魚が視える
星砂の浜へと足を踏み入れたものの、その時は泳ごうという気は殆どなかった。ハブと出会える期待の方が高かったからだ。
だけど僕は、昔から海を眺めるのは大好き。乾いた砂の上をサクサクと音を立てながら波打ち際まで進んでいく歩行のトキメキはいつもいつまでも大切にしたい。
ここまで島内を車で走って来て思っていたけれど、沖縄の海は本当に綺麗。僕が生まれ育った東北の海とも、茨城県のきったねぇ海とも、まるで違う。もはや透き通っている。東日本の海は、濁っている。
星砂の浜の海を覗き込むと、沖縄の海を知らないすべての人が驚く光景がそこにはある。
なんと、砂浜からすでに色鮮やかなお魚さん達が視えているのだ。東日本のきったねぇ海しか知らなかった僕には、目の前にあるものが信じられず思考が追いつかなかった。「こんな海が、あるわけがない!」と。
僕は急いで車へと戻り、海パンゴーグルに着替えて海へと飛び込んだ。そこには・・・
そこは、天然の水族館だった。あまりにも、綺麗すぎた。
海の中にこんなにもお魚さんがいらっしゃるだなんて、故郷の海は教えてくれなかった。
沖縄にハマる人が沢山いる理由を、一瞬で理解できた出来事であった。
お魚さんに正拳突き!海の中は時の流れが違う
想像を遥かに超える海中の景色に、僕は取り憑かれたようにひたすら色鮮やかなお魚さん達を夢中で追いかけて泳ぎ続けた。
適応力とは凄いもので、当時それほど泳ぎが得意ではなかった僕は徐々に水中での身体コントロールを身に着けていった。手のひらをオールのようにして水中で方向転換したり、今なら分かる用語中性浮力で水深1~2mの海層に留まることが出来るようになった。好きこそものの上手なれ極まりけり、だ。
水中でのある程度の自由を手に入れた僕は、次なる行動に出た。目の前に幾百と乱舞する可愛い小魚達。なんと美しいのだろう。ゴーグルの中に貯まる水は隙間から入った海水なのか、もしくは感動のあまり溢れた僕の涙だったのかもしれない。
このエメラルドブルーの海で平和に泳ぎ回る熱帯魚たちと、もっと近くで戯れたいと思った僕は、その群れめがけて水中で正拳突きを繰り出した。
魚にはまったく当たらないのだが、拳の先からボコボコと泡の渦が伸びるのが快感で、それからずーっとお魚さん達を殴り続けていた。4月のオフシーズンで人が少なくて、幸いだったと思う。
どれくらい時間が経ったのか、海から上がるきっかけは、小魚を追い詰めて正拳突きを放った時、誤って岩を殴ってしまったからだ。水中に、赤いヴェールが広がる。今でも拳にはその痕がうっすらと残っている。
「もしかしたらこの血に誘われて、サメが来るかも!」と閃いたのだけれど、一旦落ち着いて陸に上がると、時刻はなんともう18:30を回っていた。
実に、6時間くらい泳いでいたことになる。そしてハッと我に返る。
こんな時間ではもう、ピナイサーラの滝でハブに遭うことが出来ない・・・。更に、空腹が追い打ちをかける。今でも思うが、泳ぐというのは全身運動なのでもの凄くお腹が減る。
これ以上の長居は不可能と判断し、名残り惜しみながらも星砂の浜をあとにした。
イリオモテ◯◯ネコとの遭遇
食事は近くのお店で本場のゴーヤチャンプルーを食べた。
楽しみにしていたのにあまり印象に残っていないのは、決して味がどうこうではなく、その日を計画通りに遂行出来なかった自責の念と、それ以上に星砂の浜での海中の光景のあまりの感動体験が大きかったからだろう。
でも、ハブには遭いたいし出来れば捕獲して役所に持っていって換金したい。そのために特訓だってして沖縄に来たのだ。ちなみに特訓とは、熱に反応するハブにホッカイロを投げつけてそれに噛みついているうちに帽子をかぶせて安全に捕まえてしまおうという作戦だ。ハブの生態を研究し尽くした、見事な案だと思う。今の僕なら絶対に実行しようとは思わないのだがね。
悔いを残したくない僕は、夜の西表島で草の茂みを棒でつつきながらハブがいないか探していたのだが、そこで思いがけない野生動物と遭遇することとなった。暗闇に光る鋭い目、頭部からなんとなく伸びている2つの耳、アレは・・・
イリオモテヤマネコだ!!
少し近づいても、野生動物ともあろうものが逃げもしない。それどころか、ふてぶてしい表情で僕を睨みつけていやがる・・・やってやる。そう覚悟して更に近づくと、徐々にその姿を確認することが出来た。
茶色で、小型で.、愛嬌があって..まるで内地の茶トラに似ている。というか、もはやあれは茶トラだろう。
とりあえず写真を撮った僕は、旅から帰った後、沖縄のお土産ちんすこうを配りながら当時住んでいた茨城県の田舎者達に、
「イリオモテy…mネコ」と濁して言いながら写真をみせて回った。
馬鹿な奴らめ、西表島で撮影したネコという先入観からみんな勝手に「イリオモテヤマネコだ!」と驚きの声を上げていた。もう・・・発想が単純よねぇ!!そんな奴らに僕は言ってやったのさ。
「イリオモテ野良猫だよ」と。
これはとてもウケるから、西表島に行く人はぜひ野良猫を見かけたらとりあえず写真を撮っておこう。
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